エジプトの西隣に位置する北アフリカの国リビアは、2011年にカッザーフィー政権が崩壊して以来、治安が安定しないまま今に至っている。そのリビアの地中海に面した港からゴムボートや老朽化した漁船等、とても国際航海に適したとは思えない船でヨーロッパを目指して出港していく移住者たち。彼らの多くはサブサハラと呼ばれるサハラ以南の国々出身で、サハラ砂漠を渡る、想像を絶する苦難の行程を経てリビアに到着するのだが、そこで彼らを待ち受けるのは激しい暴力なのである。
先月、そのリビア国内での暴力、人権侵害全般について国連の人権理事会が報告書(注1)を公表した。報告書では、移住者たちに対する拷問、レイプ、奴隷化等のおぞましい行為についても特に一節を設けて述べられている。
ここでは、その報告書に書かれている一人の移住者の言葉を紹介しよう。この人はリビアから地中海を渡ってヨーロッパに辿り着いたのであるが、次のように語る。
「私たちは、(地中海で)海に落ちて死んでしまうことを恐れていたのではありません。リビアに戻され、(収容施設の)警備員たちに迫害、拷問されることを恐れていたのです。」
言葉を変えれば、「リビアに戻るくらいなら、死んだ方がまし。」ということになろう。リビアでの暴力がどれほどひどいものであるか、この人の言葉からはっきりわかる。
国境なき医師団の2021年04月02日付の「携帯電話を持っているだけで殺されることも──難民・移民にとって無法国家リビアの実態とは」と題された以下の記事も合わせて読んでいただければ、その暴力の実態がよくわかると思います。
https://www.msf.or.jp/news/detail/headline/lby20210402mt.html
さて、国連の報告書では、もう一つ重要なことが述べられている。リビアの湾岸警備隊をはじめとする組織への技術、物資(湾岸警備隊の警備艇も含まれる)、資金が、EUやその加盟国から供与されているのである。
EUやその加盟国の政治家等が、リビアでこのような暴力が蔓延していることを知らないはずはないであろう、知ったうえで、このような援助を行っているのである。リビアからヨーロッパを目指す移住者たちを押し戻す(push back)ために、このような援助を行うのである。あまりにもおぞましいことではないだろうか(注2)
注1:報告書は以下のURL(英文)
注2:イギリスのGuardian紙の2022年11月30日付の記事では、以下のように記されている。
「(移住者たちのリビアへの)プッシュバックが始まったのは2017年2月である。この時、イタリア政府はリビアと協定を締結し、リビアの沿岸警備隊への資金、装備、訓練を提供することとした。その目的は、(移住者たちの乗った)ボートを拿捕し、リビアに連れ戻すためである。(移住者たちの)支援団体が語るように、そのリビアでは移住者たちが虐待、拷問を被るのである。」
The pushbacks began in February 2017 when the Italian government struck a deal with Libya, offering to fund, equip and train its coastguard to intercept and bring boats back to a country where aid agencies said they suffered abuse and torture.